皆さん、食事のときによく噛んで食べていますか?
よく噛むことには健康上のさまざまなメリットがありますが、現代社会はあまり物を噛まない生活になっています。
現代人の一回の食事あたりの咀嚼回数は、戦前と比べても半分以下、時代をうんとさかのぼって、弥生時代と比べるとなんと6分の1以下と言われています。
昔の食べ物は、玄米や穀物・木の実など、何度も噛まなければ食べられない固いものばかりでした。
現代の食品は、ラーメンやハンバーグ、ふっくらした白米など、どれも柔らかく加工されており、たくさん噛まなくても食べられるようになっています。
噛む力の衰えは、弥生時代まで溯るまでもなく、昭和生まれの方と、最近の若い人の顎の骨の形にも表れているようです。
個人差もありますが、いろいろな人の顔を観察すると、若い世代の方のほうが顎の骨が小さい傾向にあります。
噛む力が弱いと顎の骨が充分に発達せず、歯並びが悪くなるなどの悪影響も現れます。
卑弥呼の歯がいーぜ!
この「卑弥呼の歯がいーぜ」というのは、1990年に日本咀嚼学会が発表した、よく噛むことの大切さを示した標語です。
実際の卑弥呼の歯がどうだったかは分かりませんが、卑弥呼が生きていた弥生時代は今より6倍も多く噛む食生活をしていたので、きっと丈夫な歯をしていたのでしょう。
この標語の「ひ・み・こ・の・は・が・いー・ぜ」8つの文字が、よく噛むことの8大効用の頭文字になっています。
【ひ】肥満予防
よく噛むことで肥満予防になります。
これは、食べ物をかみ砕くときに、歯の根の部分(歯根膜)や頬の筋肉から神経ヒスタミンという物質が分泌されるためです。
この神経ヒスタミンは満腹中枢を刺激し、同時に食欲を抑えるレプチンというホルモンの分泌も促進します。
また、満腹中枢が血糖値の上昇を感知するまでに約15分かかりますが、よく噛むことはゆっくり食べることにもつながるので、少ない食事の量でも満足度が高くなるというわけです。
【み】味覚の発達
よく噛むことで、素材そのものの味をしっかりと味わうことができるようになります。
塩分が濃すぎる調味をしなくても満足感が得られるようになるため、より健康的な食生活になります。
「食事の満足感が得られる」という意味では、肥満防止にも関係していますね。
【こ】言葉の発音がはっきりする
最近では「口の筋肉を鍛える表情筋トレーニンググッズ」なども多数販売されています。
口元のたるみ・ほうれい線の解消や、自然な笑顔を作るために、頬の筋肉を鍛えるのだそうです。
よく噛むことで、口の周りの筋肉が自然に鍛えられ、表情が豊かになり、自然な笑顔が作れるようになります。
この標語が作られた90年は、頭文字の【こ】は「言葉の発音がハッキリする」という意味でしたが、現代なら「小顔になる」でもいいかも知れませんね。
【の】脳の発達
東京医科歯科大学の2017年の発表によると、ふたつのグループに分けたマウスの片方に固形食、片方に粉末食の餌を与えたところ、よく噛んだ(固形食を与えた)マウスは記憶力が30%も向上したということです。
研究者のコメントによると、咀嚼筋が活発に動くことで脳神経を刺激して発達させ、記憶力が学習機能が向上したのだろうということです。
【は】歯の病気を予防する
よく噛むことで、だ液がたくさん分泌されます。
このだ液には抗菌作用があり、口の中の食べかすなどを洗い流すだけでなく、食事により酸性に傾いた口の中のPH値を整えたり、食事で溶け出した歯の表面を再石灰化するなど、さまざまな働きがあります。
そのため、だ液がたくさん分泌されるとむし歯になりにくくなるというわけです。
【が】ガン予防
これは、上であげた「だ液がたくさん分泌される」という項目にも関係しています。
だ液に含まれる「ペルオキシダーゼ」という酵素には、発がんや老化、動脈硬化の原因となる活性酸素の働きを抑える作用があります。
そのため、よく噛むこと自体にガン予防の効果があると言われています。
【いー】胃腸の働きを改善
よく噛むことで食べ物はより細かくかみ砕かれ、だ液に含まれるアミラーゼなどの消化酵素の働きがよくなります。
そのため、胃から腸への負担が全般的に軽くなり、栄養の取りこぼしも少なくなります。
【ぜ】全身の体力向上と全力投球
スポーツの世界では、噛む力が全身のパフォーマンスに影響を与えることが知られています。
プロのスポーツ選手のなかには、瞬発的なパワーを高める目的でマウスピースを使用する人もいます。
また、小学生を対象にした研究では、噛む力が強い児童の方が運動能力も高いという結果が出ています。
よく噛むことで、いざという時に瞬発力を出せるようになります。
噛む力を高めるには
では、噛む力を高めるにはどうしたらよいでしょうか?
現代人が咀嚼する回数は、一口10〜20回と言われています。これを意識的に一口30回噛むようにする方法がお勧めです。
一口ごとに30回数えるのが面倒であれば、通常の咀嚼回数で食事をして、飲み込みたくなってから「プラス10回」咀嚼するようにします。
現代人は慌ただしい生活を送っているので、食事の咀嚼回数を少なく、食事の時間を短くする傾向にあります。
一回の食事の咀嚼回数を増やすと、食事に時間がかかるようになりますが、よく噛んで食べることには上に挙げたようなさまざまなメリットがありますので、ぜひゆったりした気持ちで行ってみてください。