暑い季節になると、冷たい炭酸飲料やビールなどが恋しくなりますよね。
でも、飲食物の種類や摂り方によっては、私たちの歯を溶かしてしまうことがあります。
今回は、飲食物のなかに含まれる酸によって歯の表面のエナメル質が溶けてしまう「酸触歯」についてお伝えします。
酸触歯とは
歯の表面は「エナメル質」という硬い物質で守られています。
このエナメル質は、人間の体のなかで最も硬い組織です。
物質の硬さを表す単位に「モース硬度(モース硬さスケール)」というものがあり、一番硬いダイヤモンドを「10」としたときの相対的な硬さ(表面の傷の付きにくさ)が分かります。
エナメル質がどれほど硬いかというと、鉄のモース硬度が「4」、ガラスが「5」なのに対して、エナメル質は「6〜7」に分類されています。
歯の表面を守っているエナメル質は、鉄より固いということですね。
しかし、これほど硬いエナメル質にも弱点があります。
それは「酸に弱い」ということです。
エナメル質の主成分は「ハイドロキシアパタイト」というリン酸カルシウムの一種ですが、酸に触れることでカルシウムやリンが溶け出してしまいます。
この現象を「脱灰」と呼び、虫歯ができるメカニズムと同じです。
酸性とアルカリ性
小学校の理科の時間に、リトマス紙を使って水溶液の酸性・中性・アルカリ性を調べる実験がありました。
リトマス紙に溶液をつけて、赤くなると酸性、青くなるとアルカリ性です。
この酸性・アルカリ性の程度を示す単位がpH(ピーエッチまたはペーハー)で、中性はpH7になります。
pHの値が7より小さくなるほど酸性が強くなり、大きくなるほどアルカリ性が強くなります。
身近なものでは、純水が中性(pH7)、ブラックコーヒーが弱い酸性(pH5)、お酢〈酢酸〉がやや強い酸性(pH3)、レモン果汁〈クエン酸〉が強い酸性(pH2)に該当します。
エナメル質は酸に弱い
私たちのお口のなかは、通常pH6.8〜7の中性に保たれています。
このpHが5.5以下の酸性になると、歯の表面のエナメル質が溶けはじめます。
そうなると、歯の先端が透明になったり、歯の表面に凹みができることもあります。
このエナメル質が溶け始めるpH5.5という数値は「弱い酸性」にあたり、健康な肌の表面と同じくらいのpHです。
ブラックコーヒーでもpH5程度なので、エナメル質がいかに酸に弱いかがイメージできるかと思います。
とはいえ、酸性が弱い場合はエナメル質が溶け出すスピードもごくゆっくりなので、以下でお伝えする唾液の働きと相まって、あまり心配する必要はありません。
口内環境を整える唾液の働き
口内環境を保つために一役買っているのが唾液で、食後に口の中を洗い流したり、酸性に傾いたpHを中和する働きがあります。
また「再石灰化」といって、唾液に含まれるカルシウムイオンとリン酸イオンが、脱灰したエナメル質の結晶を再生して、もとの健康な状態に戻す働きもあります。
食事をするたび、お口の中では歯が溶ける「脱灰」と、溶けた歯を元に戻す「再石灰化」がくり返されています。
これは自然なサイクルであり、この2つのバランスが保たれていれば、あまり神経質にならなくても大丈夫です。
酸触歯になるリスクが高くなるのは、この自然のバランスが崩れて、お口のなかがずっと酸性に傾いているような場合です。
暑い夏に飲みたくなる飲料に注意
暑い日には、シュワッと爽やかな清涼飲料水が飲みたくなりますね。
炭酸飲料はpH2.2〜3.4程度で、酸性が強いので要注意です。
その他、スポーツドリンクはpH3.5程度、お子さんの好きな乳酸飲料はpH3.4程度あります。
大人の方が暑い日に飲みたくなるものの代表といえばビールですが、pHは4.3程度あります。
他にもアルコール飲料は酸性のものが多いですが、特にワイン(pH3.3)や梅酒(pH2.9)などは酸性が強めです。
健康ブームの落とし穴
健康食品には「黒酢を飲むと血液がサラサラになる」「クエン酸を飲むと疲れが取れる」など、その時々で流行があるようです。
ここでは、それぞれの効果のほどは論じませんが、黒酢やクエン酸は酸性が強いので、口内環境からみると摂取する際には注意が必要です。
「黒酢を飲むと健康になる」という情報を知った母親が、子供に黒酢を飲ませ続けたところ、酸触歯で乳歯が溶けてしまったというケースもあります。
子供の歯はエナメル質が弱く、大人の歯よりも虫歯や酸触歯になりやすいのです。
また、炭酸飲料やジュースなどを哺乳瓶やストローマグで与えると、吸い口付近に酸が集中しやすく、その部分がより溶けやすくなります。
子供については、甘いものを食べた後のケアももちろんですが、酸性が強いものを摂取した後にも気を付けるようにしてください。
最近では、健康嗜好やコロナ禍での気分転換の目的で、炭酸水がブームになっているようです。
フレーバーが付いていないものであればpH5.5前後なので、あまり心配しなくてもよいでしょう。
酸触歯を防ぐには
酸触歯を防ぐためには、まず唾液の「中和」「再石灰化」のバランスを整えるのが一番です。
ジュースやスポーツドリンクなどを水代わりに飲んだり、寝る前に飲んだりすると、お口の中が酸性になる時間が長くなってしまします。
だらだらと飲食しないようにすることで、食後、唾液の機能がしっかり働くようになります。
また、酸性が強い飲食物を摂取した後は、意識的に水やお茶で洗い流すようにするのも効果的です。
酸っぱいものを食べたあと、30分くらいは歯みがきを控えましょう。
というのも、酸に触れた歯は表面のエナメル質が柔らかくなっています。
この状態で強い力でブラッシングをすると、エナメル質がダメージをうけてしまうからです。
食後30分ほど経てば、唾液の働きによって酸性が中和されるので、ブラッシングをしても大丈夫です。
その際、フッ素が配合された歯磨き粉やマウスウォッシュを使うと、エナメル質を強化して酸触歯を予防することができます。
酸触歯はとてもゆっくり進行するため、これまでは大人になってから罹るものと考えられていました。
しかし、食生活習慣の変化により、子供のうちから酸触歯になってしまう例も報告されています。
フッ素の塗布は歯科医院でも行っていますので、気になる症状がある方は歯科健診を兼ねて受診されることをお勧めします。