今回は、歯垢と歯石の違いについて解説してみたいと思います。
今月のポイント
- 歯垢は食べかすではなく細菌の集合体。放置すると虫歯や歯周病の原因になります。
- 磨き残した歯垢は、数日〜半月程度で歯石に変化します。歯石には歯垢が着きやすいので、虫歯や歯周病になるリスクが高まります。
- 歯垢が歯石になると、歯ブラシで落とすことはできません。歯科の専用器具を使って除去します。
歯垢とは
歯垢とは、歯の表面についた汚れの一種です。
歯みがきを一回怠ると、歯の表面にネバネバ、ザラザラしたものが付着していることが分かるでしょう。
それが歯垢で、プラークとも呼ばれています。英語ではデンタル・プラーク(Dental Plaque)と言います。
この歯垢の正体は、食べかすではなく、お口の中にいる細菌の集合体です。
食べかすであれば、水で口をすすげば落とせますが、歯垢はその程度では落とせません。
それは、歯垢がもつ独特のネバネバした性質のせいです。
このネバネバはバイオフィルムと呼ばれる微生物などの集合体で、排水溝や三角コーナーのヌルヌルとおなじ構造をしています。
歯垢1mgの中には、1億〜10億もの細菌がいると言われています。
そのため、歯の表面に歯垢が付着したまま放置すると、虫歯や歯周病に罹りやすくなってしまいます。
虫歯は、虫歯菌(ミュータンス菌)が糖を分解するときにできる酸によって、歯の表面のカルシウムが溶かされて穴が開いてしまう病気です。
歯周病は、菌が出す毒素によって歯ぐきに炎症が起き、やがて歯が抜けたり、全身の健康にも影響を及ぼす病気です。
いずれも、お口のなかの歯垢を十分に落とさなかったことをきっかけに発症します。
歯垢は、水ですすいだだけでは落とせませんが、歯ブラシなどのセルフケアで除去することができます。
歯石とは
歯石とは、だ液に含まれるリン酸カルシウムが歯垢と結合して、石のように硬くなったものです。
歯石の成分のうち約8割は無機質であるリン酸カルシウムで、その他にタンパク質や炭水化物、細菌の死骸などが含まれています。
歯石自体は虫歯の原因にはなりませんが、表面がザラザラしているため、そこに新しい細菌が繁殖して、虫歯や歯周病に罹りやすくなります。
イメージとしては「海の中に珊瑚礁があると、大小さまざまな魚たちが繁殖しやすくなる」といった感じでしょうか。
虫歯菌は空気を好むので、空気に触れやすい歯の表面で活動しています。
歯周病は空気を嫌うので、歯と歯ぐきの境目など、空気に触れない奥まった部分が活動場所です。
歯の表面に歯石ができると、そこを温床にして厚い歯垢の塊(=細菌の塊)ができるため、さまざまな菌が繁殖しやすくなります。
歯垢が歯石になるまでの時間は、多くの方が漠然とイメージされるているよりもずっと短いと思います。
歯の表面に歯垢が付いたまま放置すると、4〜8時間後には石灰化が始まり、2〜3日後には歯石に変化し始め、2週間くらいで元のプラークのほとんどが歯石になってしまいます。
歯垢が石灰化して歯石に変化すると、歯ブラシだけでは落とせなくなります。
浴室の鏡や蛇口周りに白い汚れが付くと、スポンジでちょっとこすっただけでは落とせませんね。
あの白い汚れはカルキ汚れといって、水道水のなかに含まれるカルシウムなどの無機質が固まったものです。
石のように硬くこびりついているため、きれいに落とすためにダイヤモンド粒子が入ったパッドを使うこともあります。
それと同じように、歯の表面についた歯石を取り除くためには、歯科専用の器具を使う必要があるのです。
歯垢・歯石を防ぐには
歯垢が歯石化すると歯ブラシでは落とせなくなるので、まだ歯垢のうちに毎回の歯みがきでしっかりと落とすことが大切です。
食後30分間はだ液の分泌が活性化しているため、毎食後30分くらい空けてから歯みがきをするのがよいでしょう。
歯と歯の間や裏側、歯肉との境目、奥歯のかみ合わせ部分などが磨き残しやすい部分です。
歯垢の色は歯の色と近い黄白色なので、パッと見ただけではきちんと磨けているかどうか判別できません。
磨き残しをチェックする「プラークチェッカー(歯垢染色液)」を使うと歯垢に色が着くので、どこに磨き残しがあるかが一目でわかり、ブラッシングの改善に役立ちます。
しかし、どんなに歯みがきが上手な方でも、歯ブラシだけでは歯垢の61%しか落とすことができません。
それは、歯と歯の間などの細かいすき間に歯ブラシの毛先が届かないためです。
歯ブラシとデンタルフロスを併用すると歯垢除去率が79%まで上がり 、歯間ブラシを併用すると歯垢除去率が85%まで上がるという研究結果が出ています。
*データはいずれも日歯保存誌48.272(2005年)から引用
セルフケアでは除去できない残り15%はどうしても歯石化してしまうので、3ヵ月〜6ヵ月に1回程度は歯科医院で歯石除去を行う必要があります。