サーキットで行うレースの世界では、タイヤや燃料が消耗したり、マシントラブルが起きたときにはピットインして修理します。
皆さまの歯も同じで、定期的な補修や急に調子が悪くなった場合にはピットイン(専門医による診察・治療)が必要です。
レースでは、状況に応じてピットインのサインが出ますが、自分の歯の場合は自分で判断しなければいけません。
今回のブログでは、お口の中にどのような症状が現れたらピットイン(受診)したほうがよいかの目安をお伝えします。
こんなサインが出たらピットイン
歯の痛み
虫歯
歯の痛みを引き起こす代表的な原因といえば、虫歯です。
初期の虫歯はほとんど痛みを感じませんが、神経まで進行すると痛みを感じます。
ときに耐えがたいほどの痛みを生じさせることもあり、こうなるとピットインをためらう方はいないでしょう。
虫歯が神経まで達してしまうと神経を取ることになるため、できるだけ早い段階のサイン(たまに痛む、少し痛いなど)を見逃さないようにすることが大切です。
その他の原因
歯とその周辺には、象牙質・歯髄・歯肉など、痛みを感じる部分がたくさんあります。
痛みを引き起こす原因も、歯周病・知覚過敏・かみ合わせの悪さ・三叉神経痛など、さまざまなものがあります。
そのため、痛みの原因を特定するためには、専門医による診察が欠かせません。
歯に痛みを感じるということは、何らかの不調があるサインなので、特にくり返す痛みがある場合には早めに受診されることをお勧めします。
歯ぐきからの出血
歯周病
歯ぐきから出血している場合、真っ先に考えられる原因は歯周病です。
世界で広く使われている「CPI(地域歯周疾患指数)改訂法」での最新の分類によると、45歳以上の日本人の過半数が歯周病に罹患していることになります。(歯周ポケット4mm以上保有者の割合)
歯周病は沈黙の病気(サイレント ディジーズ)とも呼ばれ、目立った自覚症状がないまま、何年もかけて進行します。
歯周病は歯を失う原因の第一位で、進行した歯周病には有効な治療法がないため、歯が抜け始めてから対処しても手遅れということになります。
また、出血部分から菌が血液に侵入して全身に運ばれ、さまざまな全身症状を引き起こすことも知られています。
そのため、30代・40代の方でも歯ぐきからの出血を軽く考えず、早めに受診されることをお勧めします。
その他の原因
歯ぐきは比較的炎症を起こしやすい部位なので、歯周病以外にもさまざまな原因で出血することがあります。
- 歯みがきの際に力を入れすぎて、歯ぐきに傷をつけている。
- 喫煙により血流が悪くなって炎症を起こし、出血しやすくなっている。喫煙者は非喫煙者に比べて歯周病に罹患するリスクが高いため、二重に注意が必要です。
- 血が止まりにくくなる血液の病気(急性白血病・血友病・再生不良性貧血など)に罹っている。小さいお子さんの歯ぐきから出血して止まらない場合は注意が必要です。
- 歯のかぶせ物がうまく合っていない場合。すき間にプラークがたまり、細菌によって炎症を起こします。かぶせ物が原因の場合は、口の中の特定の部分だけに出血が見られることが多いです。
- 歯の根の炎症。虫歯などで歯根に細菌が侵入すると、それが原因で炎症を引き起こすことがあります。進行すると歯を支える骨まで溶かされてしまう場合があるため、早めの検査をお勧めします。
歯がしみる
知覚過敏
歯がしみる原因としてよく知られているのが知覚過敏です。
歯の表面はエナメル質という硬い層で守られていますが、このエナメル質が摩耗したり、歯ぐきが下がることによって内側の柔らかい象牙質がむきだしになり、熱い・冷たいなどの刺激が神経まで伝わりやすくなります。
知覚過敏を引き起こす要因は、歯周病・歯ぎしり・破折などさまざまですが、知覚過敏が起きているということは、象牙質がむきだしになっている可能性があります。
「虫歯ではないから大丈夫」と放置せず、早めに専門医に受診されることをお勧めします。
その他の原因
神経まで達する前の虫歯も、歯がしみるように感じることがあります。
歯の神経は髪の毛1本の差も感じ取ることができるほど敏感で、原因の判定は難しいので、まずは歯科医院にご相談ください。
詰めもの・かぶせ物がとれたまま
歯の治療で使う詰めもの・かぶせものには、歯を削った部分の保護・補強という目的があります。
そのため、詰めもの・かぶせ物が取れたまま放置してしまうと、さまざまな危険にさらされます。
まず、腐食しやすい弱い部分がむきだしになるため、虫歯になりやすくなります。
また、強度が弱くなるため、歯が折れたり割れたりしやすくなります。
詰めもの・かぶせ物が取れた場合は、できるだけ早めに治療しましょう。
折れた歯、割れた歯がある
歯を強くぶつけたり、歯ぎしりの強い方などは、歯が折れたり割れたりすることがあります。
これも「詰めもの・かぶせ物が取れたまま」の場合と同じさまざまなリスクがあります。
折れたり割れたりした歯は時間が経つほど温存することが難しく、放置すると抜歯のリスクも高まるため、早めに受診されることをお勧めします。
抜けたままの歯がある
「詰めもの・かぶせ物が取れた場合」「折れた歯、割れた歯がある場合」では自分の歯が残っていますが、歯を抜けたまま放置するとどうなるでしょうか?
歯が抜けたままにしておくと、驚くほどたくさんの悪影響が出ます。
- かみ合わせが悪くなることで、反対側の歯が伸びてきたり、隣り合った歯の歯並びが悪くなる。
- 抜けた歯を補うため、他の歯への負担が大きくなり、それらの歯を失うリスクも高まる。
- かみ合わせが悪くなると、さまざまな全身の機能に影響を与えることが知られています。
- 歯の本数が減ると転倒のリスクが高まったり、認知症の発症率が上がることが分かっています。
ゴールは20本の歯を残すこと
このブログの冒頭では、自動車のレースに例えて、「口の中にどんなサインが現れたときにピットイン(専門医を受診)すべきか」の目安となる症状をご説明しました。
このレースのゴールは、「80歳になったときに自分の歯を20本以上残す」ことです。
自歯が20本あれば健康的な食生活が維持でき、20本を下回るにしたがって自由に食べられる食事が減っていきます。
まだあまり自覚がない若い世代の方も、すでに歯が抜け始めてしまったという方も、適切な診断と治療で少しでも長く自分の歯を残すことができますので、これらのサインを見逃さないようにしてください。