今回は、まだ小さなお子さんがいるご家庭にむけて、乳歯から永久歯に生え替わる仕組みや、乳歯の頃にケアするポイントについて解説してみたいと思います。
今月のポイント
- 永久歯は、赤ちゃんが誕生する前から「歯のタネ」として乳歯の下で準備しています。
- 乳歯から永久歯への生え替わりは複雑で、虫歯などで乳歯を失うと、後から生えてくる永久歯の歯並びにも影響を与えます。
- 乳歯や生えたばかりの永久歯はとても虫歯になりやすいので、注意が必要です。
- 子供の頃にしっかりとした習慣を身につけることで、自分の歯を生涯使い続けられるようになります。
永久歯が生える仕組み
植物の種を土にまいて、気温や水分・日照時間などの条件が揃うと、数日から数週間で芽が出てきます。
歯も同じように、まず「歯胚」という歯のタネができ、そこからエナメル質や象牙質などが形成され、白い歯が生えてきます。
この「歯のタネ」は、まだ赤ちゃんがお母さんのお腹の中にいる妊娠後6週頃からでき始め、歯ぐきの中でひっそりと歯になる準備を始めています。
最初の乳歯は生後3ヵ月〜12ヵ月頃に生え始め、3歳くらいまでには合計20本の乳歯がすべて生えそろいます。
6歳頃に最初の永久歯が生えはじめ、12歳前後になるとすべての歯が永久歯になります。
(これらの時期については個人差があるため、1年くらい遅くてもあまり心配することはありません。)
では「永久歯のタネ」はいつ頃から準備を始めているのか?というと、まだ赤ちゃんがお腹の中にいる妊娠後3〜5ヵ月頃には最初の歯胚が形成されているのです。
永久歯はそれから6年以上、乳歯の下でじっと生え替わるための準備を進めています。
歯は列になってこそ強い
歯の表面を覆うエナメル質は、体の中でもっとも固い組織です。
歯のエナメル質がどれくらい硬いかというと、鋼鉄のヤスリや水晶と同じくらい(モース硬度7〜8)の硬さがあります。
しかし、1本1本の歯は硬くても、大きな力が加わると脆いという弱点もあります。
ものを噛む時には体重と同じくらいの力がかかるので、1本の歯だけではとても支えきれません。
そのため、歯列(歯並び)やかみ合わせがとても大切になってきます。
ラグビーに例えると、選手がきれいにスクラムを組んでいる状態と言えるでしょうか。
このチームは、乳歯のときは20本で、永久歯になると28本(親知らずを除く、本数には個人差あり)になります。
顎の骨が成長するスピードに合わせて、選手交代しながら、歯の本数も少しずつ増えていきます。
その間もがっちりとスクラムを組み続けなければいけないため、乳歯から永久歯への生え替わりは、かなり複雑なメカニズムになっています。
虫歯などで乳歯を失うと、ぽっかりと空いたスペースを両隣の歯が塞いでしまい、後から生えてくる永久歯の歯並びが悪くなります。
八重歯になるのも、犬歯が生えてきたときのスペースが足りなかったためです。
乳歯のむし歯を放っておくと…
乳歯がむし歯になったとき、「どうせ生え替わるから」と放っておいてしまうことはないでしょうか?
乳歯は、歯の表面を保護しているエナメル質の厚みが永久歯の半分程度しかありません。
歯の表面も粗く、汚れが付きやすいため、永久歯に比べると虫歯になりやすく、いったん虫歯になると一気に進行します。
お母さんやお父さんが気づいた時には、神経まで達する重度の虫歯になっていた!ということも珍しくないのです。
エナメル質は酸に弱いので、酸性の食品なども歯を溶かす要因になります。
お子さんが好きな炭酸飲料や、おやつをだらだらと食べ続ける習慣などは、虫歯になるリスクを高めます。
そのため、周りの大人がしっかりと見てあげることが大切になります。
生え替わったばかりの永久歯は脆い
永久歯のエナメル質は乳歯よりずっと厚く丈夫ですが、生え始めの永久歯はまだ成長途中で、これから根を張って育っていく段階です。
そのため、永久歯が生えてから2年間が「一番虫歯になりやすい時期」と言われています。
この時期にお口の中が虫歯菌でいっぱいだと、このあと何十年も使うはずの永久歯が、生え替わってすぐに虫歯になってしまいます。
また、むし歯があると噛む機能が低下するため、子供の頃に大きく成長するはずの顎の骨が充分に発達できず、歯並びに悪影響を与えることがあります。
ですから、乳歯の虫歯でも、早い時期にしっかり治療してあげることが大切なのです。
お子さんが小さい頃に、食生活やデンタルケアのよい習慣が身につくように指導することが、一生涯自分の歯で食べる続けることができる財産になります。
ご家庭での正しいデンタルケアと定期的な歯科健診を組み合わせて、普段からしっかりケアするように心がけてください。