今回テーマは、乳歯と永久歯についてです。
まだ小さなお子様がいる方はもちろんですが、「乳歯って子供の歯でしょ? 自分には関係ないよ」と思われている方も、意外に関係があるかも知れません。
乳歯と永久歯の違い
乳歯の本数は、上の歯が10本、下の歯が10本の、合計20本です。
乳歯が生え始める時期は生後3ヵ月から12ヵ月くらいが多く、3歳くらいまでにはすべての乳歯が生えそろい、子供の歯並びが完成します。
この時期についてはあくまでも目安で、個人差があるため、1年くらい遅くてもあまり心配することはありません。
永久歯の本数は、一般的に28本(親知らずを入れて数えると32本)です。
小学校に入学する頃(6歳前後)に最初の永久歯が生えはじめ、中学校を卒業する頃(12歳前後)にはすべての歯が永久歯になります。
最初に生えてくる永久歯はいちばん前側の臼歯(前歯から数えて6番目の歯)で、多くの方が6歳頃に生えるため「6歳臼歯」とも呼ばれています。
6歳臼歯は、永久歯の中で一番大きく、噛む力の強い重要な歯ですが、乳歯が抜けてから完全に生えきるまでに約1年もかかります。
奥歯はもともと磨き残しが多い部位であり、かつ生え替わる途中の6歳臼歯は周囲の歯より高さが低く、歯ブラシが届きにくいため、むし歯になりやすい歯でもあります。
乳歯と永久歯では歯の大きさや形が違い、永久歯のほうがギザギザ・デコボコした複雑な形状になっています。
これによってよりしっかりした噛み合わせになり、強い力で噛むことに耐えられるようになります。
また、歯の表面を守るエナメル質の厚みが、永久歯は乳歯の約2倍にもなります。
エナメル質とは
エナメル質は歯のいちばん外側を覆っている硬い組織で、食物をしっかり噛めるようにするとともに、歯の内側にある柔らかい組織を守る働きをしています。
このエナメル質は、人体のさまざまな組織のなかでも一番硬い部分です。
エナメル質がどのくらい硬いかについては、物質の硬さを表す「モース硬度」という値で知ることができます。
モース硬度というのは、おもに鉱物に対する硬さ(ひっかいた時の傷つきにくさ)のスケールで、地球上で最も硬いといわれているダイヤモンドを10として、その他さまざまな物質の硬さを1〜10で表しています。
歯のエナメル質がどれくらい硬いかというと、モース硬度で7〜8になります。
モース硬度7〜8というのは、身近なものでは鋼鉄のヤスリや水晶と同じくらいの硬さです。
ちなみに、鉄のモース硬度が4〜5(意外と柔らかい)、ガラスが5、人体のなかでは骨が4〜5なので、歯のエナメル質がどれほど硬いかがお分かりいただけるでしょう。
それだけ硬いエナメル質を削るために、歯科で用いるドリルの先端は、あらゆる物質のなかで一番硬いダイヤモンドが使われています。
しかし、そんなに硬いエナメル質にも弱点が二つあります。
それは「硬いけどもろい」「酸に弱い」という点です。
硬くて傷つきにくいガラスは、外からの衝撃が加わると、力を吸収できずに割れてしまいます。
それと同じように、歯も物理的な衝撃を受けると欠けたり折れたりしてしまうことがあります。
また、歯の表面では、食べかすなどをもとに虫歯菌が酸を作り出しています。
エナメル質は酸によって腐食してしまうため、むし歯は大敵というわけです。
また、酸触歯の記事でもお伝えしたように、日常的に酸性の強い食品を摂取することで歯が溶けてしまう場合もあります。
乳歯のむし歯を放っておくと…
子供の乳歯がむし歯になったとき、「どうせ生え替わるんだから」と放っておいてしまうことはないでしょうか?
放置したむし歯が歯の根の部分まで進行してしまうと、歯根に細菌や膿がたまり、そこを通って生えてくる永久歯もむし歯になって生えてくる可能性があります。
また、むし歯があると噛む機能が低下するため、子供の時期に大きく成長するはずの顎の骨が充分に発達できないこともあります。
乳歯のむし歯が悪化して、永久歯が生える準備が整う前に抜けてしまうと、そこにぽっかりとスペースができ、両隣に生えてきた永久歯がそのスペースを塞いでしまうこともあります。
そういった悪条件が重なると、歯が曲がって生えてきたり、歯並びが悪くなるなどの原因になります。
いつまでも残る乳歯
それ以外にも、本来生えるべき永久歯が生えてこない「先天性欠如」という症状があります。
先天性欠如は「乳歯の一部が生えない」「永久歯の一部が生えない」という、いずれの場合も起こり得ます。
永久歯が生えない場合は、そこにあった乳歯が生え替わることなく、残り続けることになります。
乳歯は永久歯に比べてエナメル質が薄いため、むし歯になるリスクが高く、根が浅いので強く噛む力にも弱くなります。
この先天性欠如というのは、特別に珍しい症状というわけでもありません。
「日本小児歯科学会」が2011年3月に行った調査によると、小児歯科を受診する子供の10人に1人について、1〜数本の先天性欠如(親知らずを含まない)が認められたということです。
乳歯は成長するとともに永久歯に生え替わっていきますが、その過程で永久歯の生育に影響を与える場合があります。
もし何か気になることがある方は、ぜひ歯科医院へご相談ください。