今回は「鼻呼吸」と「口呼吸」のお話です。
人間の体は、もともと鼻で呼吸するようにできています。
まず、鼻には空気清浄機のような働きがあります。
鼻毛や鼻の粘膜がフィルターになって、埃や花粉・ウィルス・細菌などが簡単に侵入しないように体を守っています。
また、鼻にはエアコンのような働きもあります。
鼻から呼吸をすることで、冷たい空気が直接体内に入らないようにしています。
脳は熱に弱い器官ですが、脳から出た余分な熱を鼻から外に逃がすこともできます。
このように、鼻には呼吸に関わる仕組みがたくさん備わっているのです。
ところが口で呼吸を行うと、これらの優れた仕組みを使うことができません。
乾いた外気が口から直接入るので、喉の粘膜が乾燥してしまいます。
息とともに吸い込んだウイルスや細菌が乾いた喉粘膜に付着すると、体内に侵入しやすくなります。
口呼吸は免疫力の低下につながるため、口呼吸の習慣がある方は、なるべく鼻呼吸に改善したほうがよいと言えます。
さて、ここまでは全身の健康に関するお話でしたが、口呼吸はお口の中にもさまざまな悪影響を及ぼします。
どんな影響があるか、ひとつずつ見ていきましょう。
口呼吸で虫歯になりやすくなる?
だ液には、デンプンを糖に分解したり、食べ物を飲み込みやすくするなど、食事を助ける働きがあります。
しかし、だ液の役割はそれだけではありません。
まず、だ液は口内に残った食べかすなどを洗い流します。
ただ洗い流すだけではなく、食事で酸性になったお口の中を中和します。
歯は酸に弱いため、口内が酸性だと虫歯のリスクが高まりますが、だ液はその環境を改善してくれるのです。
また、だ液には歯の表面を再石灰化する働きもあります。
この働きのおかげで、わずかに溶け始めた歯の表面を修復することができます。
さらに、だ液には抗菌作用もあり、細菌の増殖を抑えてくれます。
このように、だ液には虫歯を防ぐためのたくさんの働きが備わっています。
しかし、口呼吸によって口の中が乾燥すると、だ液の分泌量が減って、虫歯を防ぐ力が弱まってしまいます。
そのため、口呼吸をすると虫歯になりやすくなるのです。
口呼吸で歯周病のリスクが増える?
虫歯菌は空気を好むので、歯の表面にたくさん集まっています。
一方、歯周病菌は空気を嫌うので、歯ぐきの奥にある歯周ポケットなどに隠れています。
「歯周病菌が空気を嫌うなら、口の中が乾燥していたほうがいいのでは?」と思われるかも知れませんが、そうではありません。
だ液の分泌量が減ると、口腔内全体に細菌が増え、細菌の集合体であるプラークも増えます。
このプラークが歯石に変化すると、そこを温床として歯周病菌が活動しやすくなります。
歯石は歯ブラシでは除去できないため、歯周病菌が活動し放題になってしまうのです。
口呼吸で口臭が悪化する?
口臭は、生理的口臭・外因的口臭・病的口臭の三種類に分類できます。
一番目の生理的口臭は、その人がもともと持っている臭いで、口が渇いている起床時などに強くなります。
口呼吸をすると口が渇くので、生理的口臭が強くなります。
二番目の外因的口臭は、香りの強いものやアルコールを摂取した後に出ます。
「ニンニクの効いた料理を食べると翌日が気になる」といったタイプの口臭です。
原因がはっきりしているため、あまり気にする必要はないでしょう。
口臭で一番問題になるのは、三番目の病的口臭です。
病的口臭は、他人からもはっきりと「嫌な臭い」と認識されます。
この臭いの正体は、増殖した細菌がタンパク質を分解する際に生じる腐敗臭や、患部の膿から出る臭いです。
この口臭の最大の原因は歯周病で、進行した虫歯や、舌の表面にたまった舌苔からも臭いを発します。
口呼吸をする方の口内環境は、細菌が増殖しやすくなっているので要注意です。
この病的口臭を治すには、原因になっている病気を治療することが必要です。
何年もかけて蓄積した歯石を除去するには、何回も通院することになります。
歯石は自分では除去できないので、定期健診を兼ねて、普段から年3〜4回ほど歯石取りをしておくと安心です。
口呼吸の治し方
口呼吸を治す簡単な方法は、日常生活をしながら「自分が鼻呼吸しているかどうか」を何度も確認することです。
ふだん無意識で行っている呼吸に意識を向けることで改善を図ります。
確認作業を忘れないように、スマートフォンなどでタイマーを設定しておいてもいいですね。
人によっては、これだけで口呼吸が治ってしまう場合もあります。
また、睡眠時に唇にテープを貼って寝る方法もあります。
ドラッグストアなどで専用のテープを売っていますが、肌に優しいタイプの絆創膏でも大丈夫です。
就寝時に口が開かないように、唇に縦にテープを貼って寝ることで鼻呼吸を促します。
口呼吸をする方は、普段から口が半開きになっています。
そのため、唇をしっかり閉じておけるように、口の周りの筋肉を鍛えるのも効果があります。
口の筋肉の鍛え方はいろいろありますが、前回の記事でお伝えした、ゆっくりよく噛んで食べる方法(カミング30)も有効です。
ただし、鼻に疾患がある方は、鼻呼吸ができないという場合もあります。
そういう方は無理をせず、まずは耳鼻科を受診するようにしてください。