前回のブログでは「歯は人間の体のなかで最も硬い組織ですが、酸性の食品や飲料には弱い」ということをお伝えしました。
今回は歯の硬さではなく、食べ物の硬さ/柔らかさに着目して、歯の健康について考えてみたいと思います。
硬さともろさの相互関係
前回のおさらいになりますが、物質の硬さを現す単位に「モース硬度」というものがあります。
モース硬度は、主に鉱物の硬さを示す尺度として考案され、ダイヤモンドを「10」としたときの相対的な硬さを表しています。
このモース硬度によると、歯の表面のエナメル質は7で、「歯は鉄よりも硬い」ということになります。
ここで注意しなければいけないのは、モース硬度は「物質の表面をひっかいたときの傷のつきにくさ」を示しているという点です。
表面が硬い物質であっても、外から強い衝撃が加わることで、割れたり欠けたりすることがあります。
一般的に、硬い物質ほど衝撃に対しては脆い傾向があります。
例えば、一番硬い物質といわれるダイヤモンドでも、一定の角度からハンマーで叩くと簡単に割れてしまいます。
ゴムなどの柔らかい物質は衝撃を吸収しますが、硬い物質にはこの粘り強さ(靱性)がないので、急に強い力が加わることで破壊されてしまうのです。
歯のエナメル質も例外ではなく、外から強い力が加わると、割れたり欠けたりします。
柔らかい食品であごが小さくなる
しっかり噛むためには、歯だけでなく、あごの骨や筋肉の働きも大切です。
ところが、現代人のあごは、昔に比べてかなり小さくなってきています。
試しに、50年くらい前の昭和の映画俳優の顔と、現代の若いタレントさんの顔を、何人か見比べてみてください。
あごのラインに、パッと見ても分かるくらいの違いを感じませんか?
あごの骨というのは、10〜18歳頃までに成長がほとんど完了し、それ以降は骨の大きさにはほとんど変化がありません。
現代では、あまり咀嚼しなくてよい柔らかい食品が好まれる傾向がありますが、子供の頃にこのような食品ばかり口にすると、あごの骨が十分に発達しなくなります。
あごの発達が悪いと、永久歯に生え替わる時期になっても歯が並びきらず、歯並びが悪くなったり、かみ合わせの異常が起きやすくなります。
そのため、「丈夫なあごの発達のためには〈硬い食品〉を食べるのが大切」と思われがちですが、実はこれは少し違っています。
丈夫なあごの発達のためには、〈硬い食品〉ではなく〈咀嚼回数を増やすこと〉がポイントになります。
子供の頃から「ひと口につき30回噛む」ことを習慣づけるようにするのが理想です。
また、調理をする際のひと工夫で、咀嚼回数を増やすこともできます。
例えば、伝統的な日本食には、玄米や、ごぼう・にんじん・れんこんなどの根菜類、ひじきや昆布などの海藻類、豆類や小魚など、たくさん噛むことができる食材が豊富にあります。
同じ材料を使って料理をする場合でも、素材を大きくゴロっと切ることで咀嚼回数を増やすことができます。
普段お子さんがおやつとして食べているスナック菓子を、するめやナッツ、とうもろこし、リンゴなどに変えてみるのもいいですね。
挽肉から厚切り肉を使った料理に変えてみるなど、アイデアしだいで咀嚼回数を増やすことができます。
硬い食べ物で歯が欠ける
数ヶ月前、学校給食の皿うどんを食べていた児童と教師7名の歯が欠ける事故が発生したそうです。
これは、揚げすぎて硬くなった皿うどんの麺が原因でした。
実は、硬い食品で歯が欠けることは、それほど珍しいことではありません。
フランスパンやせんべい、アイスキャンディー、ナッツ類などでも歯が割れることがあります。
よくある事例としては、食品のなかにフルーツの種や甲殻類の殻、異物などが混ざっており、そうとは知らずに強い力でガリッと噛んでしまったような場合です。
普段からナッツやあめ玉、氷の塊をガリガリとかじる癖がある方は、歯に物理的なダメージが蓄積しているので注意が必要です。
また、虫歯になっている歯や、神経を取ってしまった歯も、健康な歯より脆く割れやすいため要注意です。
睡眠時に歯ぎしり・食いしばりの癖がある方も、気づかないうちに歯が割れたり欠けたりしていることがあります。

歯が割れたまま放置すると
歯の表面を保護しているエナメル質が割れたり欠けたりすると、噛んだときに痛みが出たり、冷たいものがしみることがあります。
割れ目やひびから細菌が侵入すると、歯の神経が炎症を起こし、何もしなくてもズキズキと痛むようになります。
神経を取った歯の場合、痛みは出ないかもしれませんが、歯肉が腫れたり、膿が出たりします。
割れた歯を抜歯するかどうかの判断は、割れ目の深さや細菌に浸食された程度によりますが、そのまま放置してしまうと抜歯の確率がグンと高くなりますので、できるだけ早いうちに歯科医院を受診されることをお勧めいたします。