今回は、詰め物やかぶせ物などを作る際に必要な「型取り」についてご説明します。
歯の型を取るときに使う材料を「印象材」といい、印象材の種類は大きく分けて「アルジネート」と「シリコーンゴム」の2種類があります。
このうち、歯科治療でいちばん多く使われているのはアルジネートです。
アルジネートはシリコーンゴムより安価で、取り扱いも比較的簡単です。
一方、シリコーンゴムは材料が高価ですが、より精密な型が取れるので、セラミックの治療などに用いられます。
アルジネートについて
歯科での治療中に「これから型をとります」と言われて、お口のなかにすこし冷たくてムニュっとした感触の材料を入れられることがありますが、あれがアルジネートです。
グリーンやピンク、紫など何種類かの色があって、それぞれ流動性や硬化時間などが違います。
アルジネートの主成分は、アルギン酸ナトリウムと石膏です。
アルギン酸ナトリウム
アルギン酸ナトリウムは、昆布やわかめなどの海藻類から抽出したネバネバ成分(アルギン酸)をナトリウムで中和させたものです。
液状の物質に粘りを与えて固める性質があるので、食品添加物(増粘剤・安定剤・ゲル化剤)としても利用されています。
身近なものでは、かまぼこや寒天などを固める際に使われることがあります。
そう言われてみると、ムニュっとしたあの材料って、かまぼこと感触が似ていると思いませんか?
石膏
石膏は硫酸カルシウムと水を成分とする鉱物で、美術室の石膏像や、壁面の石膏ボードなどで、誰でも一度は目にしたことがあるでしょう。
表面が滑らかで、水と混ぜると固まる性質があるため、さまざまな型取りに使われます。
一定の基準を満たした高純度なものは、食品添加物として豆腐を固める際などに使われることもあります。
アルジネートはよく練って使います
アルジネートは粉末状で、水を加えてよく練ってから使用します。
粉末と水の配合によって硬さが変わってしまうので、混ぜる前にしっかりと軽量します。
硬化時間が早くなり過ぎないように、20℃以下の冷水を使います。
お口の中に入れたときにヒヤッとするのは、そのためです。
アルジネートを混ぜるときは、気泡が入らないように、スパチュラ(金属のヘラ)をしっかり押しつけて均一に混ぜます。
そして、空気が入らないように素早く印象用トレーに盛ります。
粉末に水を加えた直後から硬化が始まるので、この作業全体は30秒以内で行わなければいけません。
短時間で、気泡が入らないようにムラなく均一に練るには、練習が必要です。
練った直後のアルジネートはトロッとした状態で、時間とともに硬化していき、お口のなかに入れてから2〜3分で弾力のある固形状に変化します。
このようにして採取した雌型に石膏を流し込んで模型を作り、それを元に歯科技工士が補塡物を作ります。
* * *
余談ですが、映画の特殊メイクをするときに、役者さんの顔をドロッとした液状の物質で覆っている場面を見たことはないでしょうか。
あの物質がアルジネートで、採取した型に石膏を流し込んで、俳優さんの頭部の模型を作るようです。
歯科で使う印象材は人体に無害で精密な型が取れるため、メイクアップ用に応用されたのだと思いますが、歯の型取りと同じというのが面白いですね。
寒天と併用することもあります
アルジネートは、後述するシリコーンゴムより、精度の面で少し劣ってしまいます。
その精度を補うため、アルジネートと寒天を併用する方法(寒天・アルジネート連合印象法)もあります。
この場合は、まず細かいすき間に寒天を流し込んでから、全体をアルジネートで型取りします。
細かい部分まで型が取れる寒天と、しっかりした型が取れるアルジネートの長所を活かした手法です。
シリコーンゴムについて
シリコーンゴムは、スマートフォンのケースなどで目にすることも多い材料ですね。
人体に無害で、時間が経っても収縮しにくい(収縮率0.02%程度)性質があるので、特に精密な型取りが必要なケースで用いられる印象材です。
2種類のペースト(基材と触媒)を混ぜ合わせることで硬化が始まります。
色の違いによってペーストの硬さが違い、細かい部分には柔らかい材料、全体的を保持するためには硬い材料など、混合して使われます。
型取りには皆様のご協力が欠かせません
印象材を使う際には、歯のすき間に食べかすが残っていたり、歯ぐきから出血していると、うまく型が取れません。
そのため、型を取る前に歯石を除去したり、歯ぐきの腫れを抑えたりする場合もあります。
患者さんのなかには「型取りが苦手」という方もいらっしゃいますが、できるだけリラックスして、鼻でゆっくり呼吸をすると緩和されます。
歯の治療のためには、精密な型取りが欠かせません。
当院では、できるだけ速く固まるファーストタイプを使っておりますので、よりよい治療のために皆様のご協力をお願いいたします。