歯科の世界には、いろいろな標語・キャッチフレーズあります。
それらの標語は、皆さまの健康維持に役立つよう工夫して考えられたものです。
今回はそれらのキャッチフレーズをご紹介しながら、それぞれの言葉に込められた意味をお伝えします。
噛ミング30
皆さまは「噛ミング30(カミングサンマル)」という標語をご存じでしょうか?
これは厚生労働省が推進している「一口で30回以上噛もう!」という運動のキャッチフレーズで、2009年7月に提唱されました。
一口30回以上しっかり噛んで食べることで、お口の周りだけでなく、全身の健康にさまざまな良い効果があります。
どのような健康効果があるかについては、次の「ひみこの歯がいーぜ」というキャッチフレーズで具体的に挙げられています。
ひみこの歯がいーぜ
「ひみこの歯がいーぜ」は、食事のときよく噛んで食べることで得られるメリットの頭文字を並べたものです。
それぞれの頭文字には、以下の意味があります。
ひ:肥満予防
近年の疫学調査によると、早食いと肥満には密接な関連があることが分かっています。
食事をはじめてから脳が満腹を感じるまでには、20分以上かかります。
ゆっくりよく噛んで食べることで、少量でも脳に満腹のサインが伝わりやすくなり、肥満が予防できます。
み:味覚の発達
よく噛むことで、さまざまな食材の味の違いがしっかり感じられるようになり、味覚の発達につながります。
食事から満足感が得られ、食生活が豊かになります。
こ:コトバの発音がハッキリ
食べ物を噛むときには口の周りの筋肉がさまざまな方向に運動するので、顔の筋肉が発達します。
発音がハッキリしたり、顔がスッキリして表情が豊かになります。
の:脳の発達
よく噛むことで、味覚だけでなく、食感や香りなどさまざな情報が脳に送られます。
口や喉周辺の筋肉・神経が複雑に連動するので、脳の働きが活性化します。
高齢者にチューイングガムを噛んでもらう実験では、脳の前頭前野が活性化したり、記憶テストの成績がアップしたという研究結果があります。
は:歯の病気予防
よく噛んで食べると、だ液がたくさん分泌されます。
だ液には、食物を消化するだけでなく、口の中を洗い流したり、脆くなった歯の表面を補修(再石灰化)する働きがあります。
また、細菌やウイルスから体を守る免疫作用があることも知られています。
よく噛んで食事することで、虫歯や歯周病の予防にもつながります。
が:ガン予防
同志社大学の西岡一教授らの実験で、さまざまな発がん物質を人のだ液に30秒浸けると、毒性がほとんど消失することが分かりました。
また、発がん物質の多くは大量の活性酸素を作りますが、だ液に含まれるペルオキシダーゼやカタラーゼという酵素には活性酸素を消去する働きがあります。
ゆっくりよく噛んで食べることで、ガン予防にもつながります。
いー:胃腸の働きをよくする
よく噛むことで食物が細かく噛み砕かれるので、胃腸への負担が少なくなります。
同時に、だ液に含まれるアミラーゼという消化酵素が十分に働くため、糖の分解・吸収がよくなります。
胃腸はストレスの影響を受けやすい部位ですが、よく噛んで食べることでその働きをサポートできます。
ぜ:全身の体力向上(全力投球!)
スポーツ歯学の研究によると、しっかり噛むことで筋力アップや姿勢安定性が向上することが分かっています。
子供を対象にしたスポーツ能力テストでも、しっかり噛める子供の方がいいスコアを収めたという調査結果が出ています。
瞬発力が必要なアスリートは、奥歯を噛みしめる力がとても強い傾向があります。
毎日の食事をしっかり噛むことで、ここ一番のときにパフォーマンスを発揮できるようになります。
…
このように、しっかり噛む習慣にはメリットがたくさんあります。
あなたも毎日の食事に「噛ミング30」の習慣を取り入れてみませんか?
8020運動
このブログでも何度か取り上げている8020運動(ハチマルニイマルウンドウ)は、「80歳になっても自分の歯を20本残そう」という運動です。
1989年(平成元年)に厚生労働省と日本歯科医師会によって提唱されました。
永久歯のうち20本以上の歯が残っていれば、ほとんどの食物を自分の歯で食べることができます。
この運動が始まった当初、8020の目標を達成した人の割合は15%程度でしたが、その後の啓蒙活動等により、近年では50%台まで向上しています。
そのため、最近は「8520運動」や「9020運動」など、目標がアップデートされてきています。
加齢により歯を失う最大の原因は歯周病です。
歯周病には、若い頃から自覚症状がないまま潜伏・進行し、中年期以降に次々と歯が抜け始めるという特徴があります。
そのため、正しいセルフケアを毎日忘れずに行い、数ヶ月に一度は歯科医院で定期検診を受けるようにしましょう。