前回は「歯の接触癖」についてお伝えしました。今回は「睡眠時の歯ぎしり・くいしばり」についてご説明します。
無意識のうちに歯をこすり合わせたり、噛みしめたりする悪習慣のことを総称して「プラキシズム」といいます。
このプラキシズムは昼夜問わず現れますが、前回ご説明した歯の接触癖(TCH)は「覚醒時プラキシズム」、今回ご説明する歯ぎしり・食いしばりは「睡眠時プラキシズム」に分類されます。
目覚めているときの歯の接触癖は弱い力で長く続き、睡眠時の歯ぎしり・食いしばりは一時的にとても強い力がかかるといった違いがあります。
プラキシズムには、大きく三つのタイプがあります。
プラキシズムの三つのタイプ
歯ぎしり(グラインディング)
歯を強く噛んだ状態で、横に滑らせるのが歯ぎしりです。
ギリギリ、ギシギシという音がするため、まわりの人に気づかれやすいといった特徴があります。
グラインディングは歯の減り方が激しく、かみ合わせがすり減って平らになったり、表面のエナメル質が削れて象牙質が見えてしまうこともあります。
歯の構造上、上下の力には強いのですが、左右への力には弱いため、歯を支える骨へのダメージも大きくなります。
歯ぎしりはギリギリと大きな音が鳴るイメージがありますが、なかにはまったく音がしない歯ぎしりもあります。
食いしばり(クレンチング)
上下の歯を強い力で噛みしめるのが食いしばりです。
食いしばりの場合はほとんど音がしないので、周囲からも気づかれにくくなります。
歯ぎしり・食いしばりの際、歯にかかる力は自分の体重の2倍〜5倍程度にもなるといわれています。
体重60kgの方の場合、歯には120kg〜300kgもの力が加わることになります。
食事で噛む力はだいたい10kg程度なので、それと比較すると、とても強い力であることが分かります。
そのため、食いしばり癖がある方の歯は、ひびが入ったり割れることがあります。
顎の筋肉にも強い力が加わるため、外見からも堅く膨らんで、エラがはったような顔の印象になることがあります。
口内に「骨隆起」といわれるコブのようなものが現れることもあります。
上下の歯をカチカチ合わせる(タッピング)
上下の歯をぶつけることで、カチカチと音が鳴ります。
グラインディングやクレンチングより出現頻度は少なく、歯や顎へのダメージも少なくなります。
夜間に歯ぎしりする人の割合
ネットのさまざまな情報を見てみると、夜間に歯ぎしりをする人の割合は「成人の1割程度〜8割程度」とバラツキがあり、どれも明確な出典は示されていないようです。
歯ぎしり・食いしばりには、夜間だけでなく日中に現れたり、音が鳴らないなど、気づきにくいケースもあります。
それらのデータをどのように取捨選択するかで、このようなバラツキが生じているものと思われます。
ギリギリと音がする「典型的な歯ぎしり」をする人はおそらく成人の1割程度ですが、音がしないクレンチング、音の小さなグラインディングを含めると全体の8割程度になるのではないでしょうか。
音がしない(または音が弱い)歯ぎしりは、本人や周囲の人から気づかれにくいため発見が遅れ、さまざまな悪影響を及ぼすことがあるため注意が必要です。
歯ぎしり・食いしばりの悪影響
歯ぎしり・食いしばりによって、口内に以下のような悪影響が現れます。
- 詰めものがすぐに取れる
- 何度治療しても虫歯が再発する
- 知覚過敏で冷たいものがしみる
- セラミックの入れ歯が割れてしまう
- 歯周病の進行が加速する
- 顎の痛みや違和感(顎関節症の発症率とも関連性があります)
口内以外にも、さまざまな悪影響があります。
- 肩こり
- 頭痛
- 不眠・浅眠
- 睡眠時無呼吸症候群(歯ぎしりを持つ人の方が、持たない人より3倍リスクが高いことが、2001年スタンフォード大学の研究によって分かっています)
- 大きな音がするので同居する家族が眠れなくなる など
歯ぎしり・食いしばりの原因
歯ぎしりやくいしばりは、大脳の活動によるところが大きいと考えられています。
私たちは日々の生活のなかで、誰もが小さなストレスを抱えています。
歯ぎしり・くいしばりは、こうした日常的なストレスを緩和するために起きる行動というのが定説になっています。
セルフチェックの方法
- 同居している家族から、歯ぎしりを指摘されたことはないか?
- 目覚めたとき、顎や頬の筋肉がこっているような感じはないか?
- 日中、集中しているときに上下の歯が接触していたり、歯を食いしばっていることはないか?
- 歯肉の骨にコブのような膨らみがないか?
- 歯の根が削れたり、歯にヒビがはいっていないか?
- 頬の内側や舌の周りに歯形が残っていないか?
- 歯がすり減って平らになってきていないか?
自分では気づきづらいこともあります
歯ぎしり・食いしばりは自分では気づきづらく、自覚している人は1割くらいと言われています。
歯科医が診ると、歯のすり減り具合やくさび状欠損、骨隆起などからプラキシズムの有無を診断できますので、気になる症状がある方は受診なさってください。
歯ぎしり・食いしばりの治療
歯ぎしり・食いしばりを根本的に止める方法は、今のところありません。
対策として、歯科医院で夜間用マウスピースを作り、就寝時に装着する方法があります。
就寝時専用のため、このマウスピースは「ナイトガード」とも呼ばれています。
装着して眠ることで歯や顎へのダメージを軽減し、自覚されていない歯ぎしり・食いしばりに気づいたり、現在出ている症状の軽減するなどの効果が期待できます。
夜間マウスピースについて

夜間マウスピースは、歯ぎしり・食いしばりの力を分散させるために、装着する方の歯型を取って、それぞれのかみ合わせに合わせて製作されます。
スポーツ用とは異なり、装着したまま寝ても違和感が少ないように、かなり薄く作られています。
人によっては使い始めに違和感があり、眠りづらく感じるかも知れませんが、使い続けることで違和感は解消されます。
夜間用マウスピースは保険適用となり、4〜5千円程度で製作できます。
マウスピースのメンテナンスとしては、水洗いをし、入れ歯洗浄剤などを使った消毒を行います。
煮沸消毒は熱によって変形するため行えません。
耐用年数は一般に2〜3年ですが、歯ぎしり・食いしばりが酷い人は半年しか持たなかったり、逆に4年、5年と使い続けられる方もいます。
半年以内に再製作する場合は、保険適用のルールによって自費になりますのでご注意ください。
歯ぎしり・食いしばりは歯や顎に大きな負担をかけます。
就寝時にマウスピースを装着することで、予防効果や現在出ている症状の軽減などが期待できますが、一度すり減ってしまった歯が自然に回復することはありません。
起床時に顎に違和感を感じたときは、早めの受診をおすすめします。