今回は、高齢者の誤嚥性(ごえんせい)肺炎と、歯科医院で行うプロフェッショナルケアの関係についてお伝えします。
年間3万8千人もの方が誤嚥性肺炎が原因で亡くなっていますが、歯科医や歯科衛生士が行う口腔ケアによってこのリスクを下げることができます。
日本人の死亡原因に占める肺炎の割合
日本人の死亡原因は、厚生労働省発表の「人口動態統計月報年系」によると、2011年から2016年まで悪性新生物(がん)が一位、心疾患(高血圧性を除く)が二位、肺炎が三位でした。
その後、2017年には脳血管性疾患が肺炎を抜いて三位に上昇し、翌2018年には老衰(自然死)が三位になりました。
わずか2年の間に肺炎による死亡数は全体の五位まで下がっていますが、これは2017年以降に肺炎のリスクが低下したためではなく、それまで一緒にカウントしていた誤嚥性肺炎を、統計上では別の分類としてカウントするようになったためです。
誤飲性肺炎は「日本人の死因トップ5」などのランキングには現れませんが、単独で第七位にランクしています。
誤嚥性肺炎とは?
何かを飲み込む際、誤って気管に入ってしまうことを誤嚥といいます。
若い方の場合、誤って飲み込んだ異物が気管に入っても、むせることで肺に入る前に追い出します。これは体に備わっている自然な反応(反射)です。
ところが高齢者の場合には、この防御反応の力が弱まっているため、誤って飲み込んだ異物が肺の中に貯まってしまいます。
誤嚥する物は、食べ物や飲み物に限らず、自分の唾液も含まれます。
誰でも無意識のうちに自分の唾液を飲み込んでおり、これが誤って肺に入ると誤嚥姓肺炎の原因になります。
余談ですが、無意識のうちに飲み込むものは唾液だけでなく、空気を飲み込んでしまう呑気症(どんきしょう)や空気嚥下症と呼ばれる症状もあります。
日頃からストレスにさらされる方に多い症状で、知らず知らずのうちに空気を飲み込むことで、ゲップやおなら、腹部膨満感に悩まされることがあります。
お口のなかには細菌がいっぱい
このブログでも度々取り上げてきましたが、お口のなかには細菌がたくさん棲息しています。
種類としては 300〜700種類、細菌の総数としては、歯みがきをよく行う人と行わない人で数倍から10倍程度の違いがあることが分かっています。
唾液のなかにはたくさんの細菌が含まれるため、誤って肺に入ると誤嚥性肺炎のリスクが高くなるのです。
口腔内の細菌が増えると、誤嚥性肺炎のリスクが高くなるほか、血液から全身に伝わって狭心症や心筋梗塞、脳梗塞を引き起こしたり、糖尿病・骨粗鬆症とも相関関係があることが知られています。
お口のなかに一定数の細菌がいることは問題ありせんが、細菌が増えてしまうとさまざまな問題を引き起こします。
そのため、歯みがきやマウスウォッシュなどの口腔ケアを行い、細菌を増やさないようにすることが大切です。
高齢者における誤嚥性肺炎のリスク
もともとお口のなかには細菌がいますが、高齢者の場合、以下の原因で細菌が増殖することがあります。
①唾液の力で自浄する作用が低下している(ドライマウス)
②虫歯や歯周病が多い(菌が増えやすい)
③入れ歯や治療跡のすき間が多く、食べかすなどが詰まりやすい
④自分で十分にセルフケアを行うことが難しくなる
このような原因で、唾液ともに細菌が肺に入ると、高齢者は免疫が弱っていることもあり、誤嚥性肺炎のリスクがより高くなります。
高齢の方はご自身ですみずみまでセルフケアを行うのが難しいケースもあるため、歯科医や歯科衛生士がバイオフィルム(細菌の膜)や歯石(細菌の温床となる)を取り除くプロフェッショナルケアを行ったり、介護する方がきちんと磨けているかどうか定期的にチェックをすることが大切です。
過去の事例では、老人ホームで歯科医師や歯科衛生士による口腔ケアを積極的に行ったところ、肺炎の発生数が4割減り、誤嚥性肺炎による死亡者が半減したというレポートもあります。
口腔ケアはできるだけ早いうちに始めることが大切ですから、ご高齢の方に限らず、毎日のセルフケアと歯科医院での定期的なプロフェッショナルケアを欠かさないようにしてください。
新型コロナ感染症について
新型コロナの感染者数が、第一波のピーク時を超える勢いで増加しています。
密集した空間を避ける、マスクの着用や手洗い・消毒を行うなど、基本的な感染予防を十分に行ってください。
特効薬やワクチンの開発が待たれるところですが、これについてはまだ時間がかかりそうです。
世界中の医師や研究者が血眼になって感染メカニズムや有効な治療法を探っていますが、ウイルスは細菌の100分の1〜1000分の1程度の大きさで、構造がシンプルなため弱点の特定が難しく、環境で変異しやすいため、一般的に抗ウイルス薬の開発には数年という期間がかかるとされています。
特効薬がない現在、各個人の免疫力が頼りですが、他の病気用に作られた薬が新型コロナの症状に効くことが分かってきています。
アビガンやレムデシビルといった薬がその一部で、このように他の薬を転用することを「ドラッグリポジショニング」と呼びます。
まだまだ予断を許さない状況ですが、このような研究によって、治療方法も日々進化してきています。
基本は自己防衛ですので、三密を避けるなどの注意事項に加えて、自己の免疫を高める行動(睡眠をしっかり取る、体を冷やさない、あまりクヨクヨしない)を意識して予防しましょう。