先月のブログでは、歯科医師や歯科衛生士が行うプロフェッショナルケアによって、高齢者の誤嚥性肺炎による死亡率が下がることをお伝えしました。
今回のブログは、ウイルス感染予防の観点から、ご自身で行うセルフケアにスポットを当ててご説明したいと思います。
新型コロナウイルス対策として、すべての年代の方に当てはまる内容ですので、ぜひご一読ください。
前回の内容を簡単におさらいすると
- お口になかには細菌がたくさんいます。口腔ケアが不十分だと、この細菌の数が数倍から10倍程度まで増えます。
- 高齢者は、誤って気管に入った異物を押し出す力が弱まっています。飲み込んだ唾液が肺に貯まると、誤嚥性肺炎の原因になります。
- 誤嚥性肺炎は日本人の死因第7位の病気で、年間約4万人の方が亡くなっています。
- 口腔ケアをしっかり行うことで、誤嚥性肺炎による死亡者数が半減したというレポートがあります。
- 口腔ケアには、自分で行うセルフケアと、歯科医院で行うプロフェッショナルケアがあります。
- 高齢者はセルフケアを十分に行うことが難しいため、毎日のセルフケアに加えて、定期的なプロフェッショナルケアを行うことが特に重要です。
という内容でした。
セルフケアとウイルス感染予防
くり返しになりますが、口腔ケアをしっかり行うことで、口腔内の細菌の数を減らすことができます。
しかし、細菌とウイルスはまったく別もので、ウイルスは細菌の100分の1〜1000分の1の大きさしかありません。
口腔ケアで細菌を減らすことはできても、はたしてウイルス感染を予防することはできるのでしょうか?
日本大学歯学部の2019年の研究によると、口内の歯周病菌が減ると、インフルエンザウイルスへの感染率が低下することが分かっています。
そのメカニズムを見てみましょう。
ウイルスが人体に感染するためには、目的の細胞内に侵入する必要があります。
インフルエンザや新型コロナなどのウイルスの表面にはエンベロープと呼ばれる膜があり、この膜が細胞膜と融合することで、ウイルスの中にある遺伝物質(RNA)が細胞内に入り込み、感染します。
(ちなみに、アルコールが新型コロナウイルスの消毒に使われるのは、一定濃度のアルコールによってこの膜を壊すことができるためです)
健康な人の場合、口腔内は粘膜でしっかりと覆われているため、侵入したウイルスは細胞までなかなかたどり着けません。
粘膜は、身体に備わっている免疫機能の「最初の防壁」の役割を担っているのです。
ところが、口のなかに歯周病菌が増えると、歯周病菌が作り出すたんぱく質分解酵素(プロテアーゼ)が増え、粘膜にダメージを与えてしまいます。
その結果、粘膜による免疫作用が低下し、ウイルスが侵入しやすくなります。
歯みがきと免疫力の関係については、少し前になりますが、ビジネスマン向けの雑誌「プレジデント」5月号で『コロナに負けない! 免疫力&歯みがき入門』として特集されていました。
今からでも図書館や電子書籍などで読むことができると思います。
また、日本学校医師会からは、新型コロナウイルス感染予防の目的で小学生向けの「歯みがき指導ポスター」が配布されています。
このように、特効薬のない新型コロナウイルスへの対抗手段として、自己の免疫力を高める「歯みがき」が注目されてきています。
コロナ禍以降、手指を殺菌する正しい手洗いのやり方が周知されましたが、この機会に正しいセルフケアの方法も見なおしてみましょう。
セルフケアの方法
お口の中のセルフケアとして真っ先に挙げられるのは、歯ブラシによるブラッシングです。
しかし、歯ブラシだけでは歯垢の60%程度しか落とせません。歯と歯のすき間に貯まった歯垢は、デンタルフロスや歯間ブラシを使って落とします。
歯垢を落としたあとは、薬用のマウスウオッシュで洗口します。
①ブラッシング
歯みがきは1日2回(できれば毎食後)、1回3分以上を目安にして行います。
あまり力を入れ過ぎてゴシゴシこすると歯の表面を傷つけてしまうため、歯ブラシの先端を歯と歯ぐきの境目に当て、毛先が広がらない程度の軽い力で小刻みに動かすとよいでしょう。
②フロッシング
歯と歯の間の歯垢を落とすには、デンタルフロスや歯間ブラシを使います。
1日1回行うとよいでしょう。
デンタルフロスには、ロール(糸巻き)タイプとホルダータイプがあります。
ロールタイプのフロスは、1回分の長さに切って、指に巻き付けて使います。
ホルダータイプのフロスは手軽に使えるため、フロスを使うのが初めての方や、かぶせ物がない方にお勧めです。
かぶせ物がある方は、フロスを引き抜く際に引っかけて外れてしまう恐れがあるため、フロスが横に抜けるロールタイプのものが適しています。
歯間ブラシは、形や太さもさまざまです。
痛みの少ない、柔らかい素材でできたものもありますので、ご自身の歯のすき間に合わせて、使いやすそうなものを選んでください。
デンタルフロスは使い捨てですが、歯間ブラシは毛先が傷むまで使えます。
いったん使った歯間ブラシは、よく洗ってしっかり乾かしておきましょう。
③マウスウオッシング
ブラッシングやフロッシングをしたあとは、仕上げにマウスウオッシュでお口の中をすすぎます。
スーパーマーケットやドラッグストアなどで手軽に購入できるマウスウオッシュには、医薬部外品と化粧品の2つのタイプがあります。
医薬部外品のマウスウオッシュは口内細菌を殺菌する成分が含まれているほか、歯周病の炎症を抑える働きなどがあります。
化粧品のマウスウオッシュは、口臭予防やお口をスッキリさせることが目的で、殺菌効果はありません。
口腔内の細菌を減らして免疫効果を高めるためには、医薬部外品のマウスウオッシュを選びましょう。
以上①〜③のセルフケアをしっかり行うことで、細菌からの感染を予防するだけでなく、ウイルス感染の予防にもなります。
今後しばらくは、新型コロナウイルスから自衛しなければならない状況が続きそうです。
これまで当たり前に行ってきた歯みがきの方法を、この機会にぜひ一度見なおしてみましょう。