今月のポイント
治療の途中で痛みがなくなったからといって、治療を中断してしまうことはとても危険です。
・神経を取った歯を放置する
・詰め物やかぶせ物が仮のまま放置する
・歯周病治療の歯石取りを中断する
それぞれのケースで、なぜ治療を中断するとよくないのかを見ていきます。
多くの方は「虫歯が痛みだした」「詰め物やかぶせ物が取れた」「歯ぐきが腫れて歯がグラグラする」など、何らかの異常をきっかけに歯科を受診されます。
そのため、通院するきっかけになった症状が緩和されると、ご自身の判断で治療を中断してしまうことがあります。
例えば、歯の痛みで来院された方が、治療の途中で歯の痛みが弱くなってきたので、「まあいいや」と通院しなくなるようなケースです。
しかし、歯の痛みがなくなったからといって、治療が完了したわけではありません。
むしろ、治療中の歯をそのまま放置すると、治療をしなかった時よりも歯の寿命を縮めてしまいます。
数回の治療で完治するはずだった虫歯も、治療を中断したことで、歯を抜くことになったり、場合によっては外科的な手術をしなければいけなくなるほど悪化することもあるのです。
神経を取った歯を放置する
虫歯が悪化して神経まで達すると、激しい痛みを生じます。
こうなると、歯の神経を取る治療(根管治療)を行うことになります。
歯の神経が虫歯の細菌に冒されると、神経は壊死し、周囲に膿が溜まります。
根管治療では、それらの汚れを残らず除去してから、歯の根を洗浄・消毒し、きれいになった穴に薬剤を詰めていきます。
ところで、歯の神経(歯髄)というのは、歯の内側にある「根管」と呼ばれるトンネルの中を通っています。
このトンネルは、シャープペンシルの芯よりもずっと細く、直径0.5mm〜0.1mm程度しかありません。
細いだけでなく、歯根の内側で曲がりくねったり枝分かれするなど、複雑な形状をしています。
この複雑なトンネルのなかをきれいにするため、根管治療にはどうしても時間がかかります。
この時、「もう痛みはないし、何回も治療に通うのは面倒」と感じて、まだ汚れが残っている段階で治療を中断してしまうと、根管内で細菌が繁殖し、虫歯が再発してしまいます。
すでに神経が壊死しているので激しい痛みは感じませんが、歯の内部で細菌が増殖するので、歯根や歯を支える骨がすぐにダメージを受けます。
それだけでなく、細菌が顎の骨まで侵入すると強い激痛を生じ、外科的手術を行うことになります。
細菌の出す毒素が血液に運ばれて全身に回ると、心筋梗塞や脳梗塞など命に関わる病気を引き起こすこともあります。
詰め物やかぶせ物を仮のまま放置
虫歯の治療では、次の治療まで患部を保護するために、仮詰めをすることがよくあります。
詰め物やかぶせ物(補綴物:ほてつぶつ)は、それぞれの方の噛み合わせに合うように型取りをして、その型をもとに歯科技工士が製作します。
完成するまで1週間程度(素材によってはそれ以上)かかるため、熱いものや冷たいものの刺激から保護したり、削った部分の形が変わらないようにするため、仮詰めで保護します。
この仮詰めは、すぐに取り外すことが前提なので、耐久性は低く、最終的な詰め物・かぶせ物のような精度もありません。
そのため、仮詰めのまま放置すると、詰め物のすき間から細菌が侵入して、新しい虫歯の原因になってしまいます。
また、ガムやキャラメル・お餅など粘着性のあるものを噛むと、仮詰めが取れてしまうこともあります。
そうなると、削った部分が無防備になるので、なにも治療をしない場合よりかえって悪くなることもあります。
歯石取りの途中で放置
定期的に歯科検診をされている方や、20代くらいの若い方の場合は、あまり歯石が付いていないので、1回の通院で歯石取りが完了することもあります。
しかし、何年も歯医者に通っていない方の場合は、歯石がびっしりと付いていることが多く、歯石を取りきるまでに数回の通院が必要になることがほとんどです。
特に歯周病のある方の場合は、歯と歯ぐきのすき間(歯周ポケット)の奥深くまで歯石がついているケースが多いので、回数をかけて少しずつ歯石を取っていきます。
歯石取り自体には痛みはないのですが、歯周病の方は歯ぐきが腫れていて、歯周ポケットも深いため、どうしても痛みを感じやすくなります。
もともと歯周病は自覚症状が少ないので、歯石取りに何度も通院することが苦痛になり、中断してしまう方もいらっしゃいます。
しかし、歯周病治療で行う歯石取りは、単なるクリーニングではなく、口内環境を改善して歯周病菌を減らすという目的があります。
歯石には何億という歯周病菌が棲息しているので、歯周病を改善させるためには、最後まで歯石を除去する必要があるのです。
特に歯周ポケットの歯石を放置してしまうと、歯を支える骨を溶かし、気づいたときには次々と歯を失うことにもなります。
また、歯周病菌の出す毒素が血液に運ばれて、全身の健康に深刻な悪影響を与えることもあります。
今は痛くないからといって歯石取りをせずにいると、歯の寿命を確実に縮めてしまうことになります。
どれくらいの期間 治療を中断するとよくないのか
「治療を中断してはいけない」といっても、急な仕事が入った場合など、どうしても通院できなくなることもあると思います。
治療の途中で「どれくらい放置したら悪影響が出るか」という判断は、治療の内容や患部の状態にもよるので、一概には言えません。
一般的には、1ヵ月程度治療を中断すると治療に悪影響が出てきます。
これが数ヶ月単位の中断になると、細菌が歯や骨を溶かす十分な時間があるため、場合によっては抜歯しなければいけなくなるなど、深刻な影響が現れることがあります。
やむを得ず治療を中断するのは仕方ないですが、なるべく早いうちに再予約をして、治療を続けるようにしてください。
経済的理由で中断される方へ
全国保険団体連合会の調査によると、歯科治療を中断されたことがある方のうち、経済的理由を挙げた方が、全体の4〜5割となっています。
何回も通院するのは経済的なご負担になりますが、途中で治療を中断するとかえって症状が悪化して、後々より高額な治療費がかかってしまいます。
当院では「保険診療でもクオリティの高い治療を行うこと」を目指していますので、費用について心配な方は、ご遠慮なく「保険診療で」とお伝えください。