皆さんの中に〈お口の中で日常的に上下の歯が接触している〉という方はいらっしゃいますか?
「そんなの当たり前でしょう」と思われるかも知れませんが、実は、お口を閉じているときには〈上下の歯が少しだけ離れている〉のが正常な状態なのです。
もし仕事や日常生活の中で、上下の歯が軽くでも触れている時間が続くと、以下のような健康上のトラブルが起きる恐れがありますのでご注意ください。
TCHという癖
上下の歯が接触している時間を1日分すべて合計しても、トータルで20分以内くらいが正常な状態といわれています。
食事や会話している時間を除けば、お口の中では〈上下の歯が少しだけ離れている〉のが正しい状態なのですね。
それに対して、〈お口の中で上下の歯がずっと接触している〉状態をTCH(Tooth Contacting Habit:歯の接触癖)と呼んでいます。
Habitというのは習慣・癖という意味で、それ自体は病気ではありません。
しかし、例えば「間食をする癖」のある人が肥満や生活習慣病になりやすかったり、「ほおづえをつく癖」によって顔の形が歪んだりするように、TCHも健康に悪影響を及ぼすことが分かっています。
TCHが引き起こすさまざまな症状
顎関節症
TCHと関係が深い症状といえば、まず顎関節症が挙げられます。
(そもそもTHCは、顎関節症の原因を研究する過程で発見されたものです。)
顎関節症になると、あごの関節に痛みやだるさを感じたり、口を大きく開けられなくなったり、あごからカクン、コキンといった音がするなど、さまざまな症状が現れます。
一般の方の約2割程度にTCHがあるといわれていますが、顎関節症の患者さんだけを抜き出して調べると、約8割の方にTCHがみられます。
歯や歯ぐきの痛み・違和感
TCHによって歯や歯根に負担がかかり続けるため、歯の痛みや違和感、知覚過敏などの症状となって現れることがあります。
強い力がかかり続けると、歯が割れたり、折れたり、詰めものが取れたりすることがあり、そこからさらに虫歯が進行する原因にもなります。
歯周病を患っている方の場合は、TCHによるダメージが加わることで、歯周病の進行が速まることがあるため注意が必要です。
頭痛・肩こり・首の痛み
あごの周辺には血管や神経が集中しています。歯の根には歯根膜というクッションのような組織があり、指先の何倍も敏感な感覚センサーが備わっています。慢性的に緊張することで、頭痛や肩こり、首の痛みなどが現れます。

おならやゲップ
歯を噛みしめると唾液が多く分泌されるため、飲み込む回数も増加します。このとき空気も一緒に飲み込んでしまうと、お腹が張ったり、おならやゲップが増える場合があります。
TCHの原因
リラックスしている時、上下の歯は少しだけ開いているのが普通です。
緊張したり集中したりすると、無意識のうちに歯を合わせてしまうため、TCHが起きやすくなります。
特に、下を向いて集中して行う作業の際、TCHになりやすいことがわかっています。
パソコンやスマホを操作しているときは、下を向いて長時間集中するので、そのリスクが高まります。
その他にもデスクワークや、料理・掃除などの家事、読書・手芸などの趣味の時間にも無意識に歯が接触してしまうことがあります。
TCHは「体の使い方の癖」なので、一日のうちいつ起きるかは人それぞれです。

TCHのセルフチェック法
TCHは無意識のうちに行っているので、自分ではなかなか気づきづらいものです。そこで、簡単なセルフチェック法をご紹介します。
①姿勢を正して、まっすぐ正面を向きます。
②軽く唇を閉じ、上下の歯が触らないように軽く離します。
③この状態を5分間キープし、違和感がないかを確認します。
この動作に違和感を感じたり、5分間キープするのが辛く感じたときはTCHの可能性が高いと考えられます。
TCHを治すには
①自覚する
TCHは、本人も気づいていないことがほとんどです。
そのため〈上下の歯が触れている状態〉をきちんと自覚できるようにするのが最初のステップです。
試しに、左右の頬を両手で軽くはさんでから、上下の歯を合わせてみてください。
ギュッと強く噛み締めなくても、上下の歯が軽く触れただけで、頬の筋肉(咬筋)が動くことがわかります。
とても軽い力ですが、長い時間かかり続けることによって、歯や筋肉に悪影響を与えてしまうのです。
この感覚を覚えておいてください。
②貼り紙を貼る
付箋紙などに「リラックス」「歯を離す」と書いて、家の中のさまざまな場所に貼っておきます。
できるだけ目に付く場所に貼り、この紙が目に入ったら反射的に顎の筋肉を脱力させるようにします。
③いつでも脱力できるようにする
ステップ2をくり返していると、自分がどのような場面で歯を接触させているかに気づくようになります。
気づいた瞬間に脱力するようにすれば、最終的に無意識に歯を離せるようになります。
歯ぎしり・くいしばりとの関係性
就寝中に起きる歯ぎしりもTCHに似ていますが、歯に自分の体重以上の力がかかるので、歯が割れたり欠けたりするリスクが高くなります。
また、就寝中のため、自分では気づくことができません。
そのため、就寝時に装着するマウスピースを作ってダメージを緩和させるなどの治療が行われます。

TCH・歯ぎしりとも、ストレスが原因のひとつといわれ、同時に現れるとダメージが蓄積されてしまいます。
歯科医院では、歯の摩耗具合やお口の中の状態で診断できますので、気になる方はぜひ一度専門医を受診してください。