前回のブログで取り上げた「飛行機に乗ると虫歯が痛む」現象。
これは、飛行機の昇降時の気圧変化により、歯の内部の気体が膨張して痛みを引き起こすものです。
そんな現象を考えると、気になるのが宇宙飛行士の場合です。
宇宙空間では、どのような口腔の問題が発生するのでしょうか?

宇宙の気圧変化と歯
宇宙ステーション内部は地上と同じ1気圧ですが、船外活動で使う宇宙服の内部はわずか0.3気圧しかありません。
この気圧の差により、歯の内部の気体が膨張・収縮を繰り返し、痛みを引き起こすことがあります。
このため、宇宙飛行士の選抜や打ち上げ前には、しっかりとした歯の検査が行われます。
宇宙での過酷な環境
微小重力のもとでの生活は、骨密度の低下や筋肉量の減少など、多くの体調の変化を引き起こします。
骨からのカルシウムの過剰な排出は尿管結石の原因となり得ます。
通常、重力の影響で体液は体の下部に集まるのですが、宇宙空間ではそのような現象がなく、体液の分布に変化が生じます。
これに加え、三半規管でバランスを取ることができないので、宇宙酔いという現象が発生します。
このようなストレスフルな環境は、口腔内の健康に影響を及ぼし、口内炎や歯肉炎の原因となる可能性があります。
また、宇宙環境における唾液の分泌量の変動や、その成分に何らかの変化が生じると、口腔内の細菌のバランスを崩し、歯石や細菌の蓄積が促進される可能性もあります。
また、微小重力下での歯周病の影響は研究が進行中のようです。
宇宙での歯磨き
水は宇宙での最も貴重な資源の一つです。
国際宇宙ステーション(ISS)で使用可能な水の量は、食事や飲料、トイレ、身体の清潔を含め、1日1人約3リットルしかありません。
そのため、宇宙での歯みがきは地球とは異なる方法が取られます。
歯みがきをした後、水を使った通常の「ぶくぶく」という洗口はできません。
そのため、宇宙飛行士によっては歯ブラシ後にタオルで拭き取ったり、そのまま飲み込むこともあります。
このペーストは飲み込んでも安全な成分から作られているため、健康に害はありません。
万が一、宇宙で虫歯になった場合には
打ち上げ前の徹底的な検査で、問題のある歯は事前に治療されています。
しかし、宇宙で突然歯痛が発生した場合、痛み止めの薬で一時的に対処します。
万が一、緊急の治療が必要となった場合、フライトサージャンの指導の下、他の宇宙飛行士が歯を抜く場合もあるそうです。